Was There Then vol.1: THE HIGH-LOWS / Tigermobile

 

Tigermobile

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確かリリース日の1996年12月6日は金曜日で、高校の期末テストを終えるや否やCDショップに直行して購入、週末はテスト勉強そっちのけでこれを聴いてた憶えがある。

まずはとにかくオープニングの2曲、「俺軍、暁の出撃」&「相談天国」。僕は高校時代に友人にアルバムを貸す際ににおススメの曲を聴かれると9割以上の確率で1曲目って答えていたみたいで、「お前はいつも1曲目を押してくるなあ」と言われたことがあるけれど、1曲目で引き込まれないアルバムなんて聴く価値がないじゃん。まして高校生の耳だったら尚更のこと。これぞ「勢い一発!」ってな感じで始まる「俺軍~」のオープニング、僕は一聴してもう虜になっちゃったよ。それに続く先行シングルの「相談天国」、歌詞もサウンドもブレーキのない軽トラでチキンレースに臨んでいるような攻め、攻め、攻め一本! な感じ、これにゾクゾクしなかったらウソでしょう。名曲揃いのハイロウズナンバーでも個人的ベスト10に入るこの疾走感溢れる2曲で始まる本作は、僕が1番聴いたハイロウズのアルバム。僕が1番好きなハイロウズのアルバム。ハイロウズの最高傑作はと聞かれれば「バームクーヘン」と答えるけれど、僕が1番聴いたハイロウズのアルバムはと聞かれれば間違いなく本作だし、僕が1番好きなハイロウズのアルバムを聞かれれば、答えは満面の笑みで「Tigermobile」。

ブルーハーツに多分ギリギリ間に合った世代、1980年生まれの僕は、その活動期間的にもやっぱりブルーハーツよりハイロウズで、前年にリリースされた全方位無差別乱射みたいな1stアルバムにビックリしながらも、比較的抵抗なしにその「新しい」ヒロト&マーシーの姿を、僕のロックヒーローとして受け入れられたんだと思う。

ブルーハーツに多分ギリギリ間に合った世代、1980年生まれの僕は、その出会ったタイミング的にもやっぱりブルーハーツよりハイロウズで、あのタイミングでハイロウズに出会えたからこそ、ブルーハーツの曲もストレートに聴くことができたんじゃないかなと思うこともある。

全方位無差別乱射みたいなそんな1stの路線を、特にサウンド面で突き進めながらも、歌詞では時にひょっこりリリカルさを覗かせるこの2ndは、「新しい」ヒロト&マーシー像を確固たるものにするだけの力を持っていて、キチガイじみた勢いはありつつもどこか楽しげに歌われる「俺は俺軍の大将 俺は俺軍の兵隊」「不完全な人間だけど 完全なオレだ」「あー人間は 歯車じゃないんだろ あー大変だ 君のかわりは どこにも居ないんだろ」なんて言葉たちが、だからこそなのかな、思春期のシニカルな心にも真っ直ぐに入ってきて、だからこそなのかな、突如曲調さえもブルーハーツの「青空」「ラブレター」あたりを彷彿とさせるほどにド直球に歌い上げられるアルバムのラスト曲「月光陽光」の「今だけが生きてる時間 なのになぜ待っているのだ」の言葉が聴こえてきた瞬間、思わず涙がこぼれそうになった。

シニカルであり、リリカルでもある。どっちが本当でどっちが嘘とか、そんなんじゃない。シニカルさだけで生き抜けるほどの才覚も持っていなければ、リリカルさだけで生きていけるほどに真っ直ぐでもなかった。不完全な人間だった。でもそれが僕だった。不完全な人間であることを、ハイロウズは楽しげな曲調で肯定してくれた。

広い山に囲まれた狭い田舎街から出ることもなく過ごした思春期、未来を夢想しようにも夢想するべき光景が見つからず、過去を振り返ろうにも、振り返るほどの過去を持っているわけもなかった。だったら今だけを生きれば良いじゃないかって、ハイロウズは優しい曲調で教えてくれた。

そして、僕の最初のロックヒーロー、Oasisが歌っていたことを、異口同音にハイロウズも歌っていた。めちゃめちゃにゴキゲンに歌っていた。

 俺は俺軍の大将 俺は俺軍の兵隊 俺は一人でも軍隊 最強無敵だ

 家来も子分も ボスも上官も 俺は俺軍だ 笑いが出ちゃうよ

 未だ誰一人 見たこともない 景色を見に行く まったく愉快だ

 僕は他の誰にもなれないし、他の誰も僕にはなれないんだなあと、何となくだけど、そう思った。忘れないでいようと、そう思った。だから僕は僕である必要があるし、僕は僕であり続けるだけで素晴らしいことなんだなあと、何となくだけど、そう思った。忘れないでいようと、そう思った。

自己肯定の強さ。時に自己正当化にも繋がりかねない、時に実際そう指摘されもする僕の特徴だと思うけど、僕はそれこそが僕の最大の特長だと、そう思っている。それを、楽しく優しくゴキゲンに僕に教えてくれたバンド、ハイロウズ。このアルバムの後も、折に触れてそれを伝え続けてくれたバンド、ハイロウズ

僕が僕になっていった時期に、僕を僕にしていった作品たちを取り上げようと思ったら、真っ先に思い浮かんだ1枚。それくらい、僕を僕にしていった1枚。大好きです。