転がる岩、僕にも朝よ降れ

こういう判断基準を持っていること自体がそもそも酷い話と言われればまったくその通りとしか言えないんだけれど、頭が良いかそうでないかで人を見てしまうってところがどうしてもあって、とは言ってもさすがにすべての人間をそう見ているわけではないんだけれど、頭が良くない人間が頭が良いかのようにふるまっているのを目にすると、それこそパブロフの犬よりも早いんじゃないかって反応速度で「救い難い人間だな」と思ってしまう。「分を弁えろ」と、お前はいったいどの立場からものを言っているんだって突っ込みが聞こえなくなってるくらいには瞬間湯沸かし器的に、腹が立っているんだと思う。

この傾向が顕著だったのがたぶんいわゆる「多感な時期」で、そりゃ友人も少なかったわ、むしろよくこんな人間が少ないとはいえ今も付き合いを続けてくれる友人に恵まれたなあ、なんてことを思うわけで。そもそも「頭が良いかそうでないか」とか言いながら、10代で実際に出会った同世代の人間の中で、明らかに「自分より頭が良い」って思った人、2人しかいない。改めてこうやって書き起こしてみると、(あくまでも当時のですよ、当時の)自分の性格の悪さに、自分でも引く。

さすがに歳を重ねるとこの傾向も影を潜めてきて、とは言ってもあくまでも「潜めている」に過ぎないので、きっと奥の方ではやっぱりそういう風に人を見ているところがあると思うし、けれどそんな風に人を見てもきっと何ひとつ有益なことはないってのもさすがに歳を重ねてわかってきてはいるので、できれば可及的速やかにこういう視点は殲滅したいと、そう思ってはいる。

 

歳を重ねて、もうひとつ変わってきたというかわかってきたこととして、自分より頭が良いって人、もう掃いて捨てるほどいる。実生活でもそうだし、インターネットはさらにそうだし、そもそも自分、自分で思ってたほど頭が良いわけでもなかった気もする。

歳を重ねて気づいたそういう当たり前の事実と、歳を重ねても捨てきれないおかしな人の見方。このふたつがまた新しい気持ちを導き出してきて、それは、自分より頭が良いと思う人間が、頭が良くないかのようにふるまっているのを目にして、それこそパブロフの犬よりも早いんじゃないかって反応速度で「許し難い人間だ」と思ってしまう気持ち。「分を弁えろ」と、お前はいったいどの立場からものを言っているんだって突っ込みが聞こえなくなってるくらいには瞬間湯沸かし器的に、腹が立っているんだと思う。

この気持ちを知ったのがまだ数年前くらいのことで、こうして改めて書き起こしていても本当に性格の悪さしか浮かび上がってこなくて、さすがに少し自分で自分が嫌になってきつつある。あるんだけれど、書き起こさないで無視しようと思えば無視できるのかもしれないけれど、書き起こしちゃえば少なくとも僕は無視できないし、かつて「どうでもいいことと神の智恵を完全に無視する才能を持っている」と言ったのはストーン・ローゼズジョン・スクワイアだけど、今の僕は僕のこういうところをどうでもいいとは思えないので、無視しない。

 

お前はいったいどの立場からものを言っているんだって突っ込み、それをかき消すくらいの瞬間湯沸かし器的な腹立たしさによっていくらか相殺されるんだけれど、じゃあお前は救われ許される人間だと言えるのか、救われ許される人間であろうとしているのかっていう突っ込み、この音量は歳を重ねるたびに大きくなってきて、無視し続けるにもそろそろ限界が近づいてきてる気がしてる。

 

自分の器を自分で把握しながら、それでも自分の器を諦めないような、そういう生き方をしている人のことが、好きなんだと思う。歳を重ねて、そういう生き方をしている人のことが、好きになってきたんだと思う。自分が今までそういう生き方をしてこなかったことが、してこれなかったことが、わかっているから。

 

誠実だって、時々言ってもらえる。誠実でありたいと思いながら生きている。誠実だって言ってもらえることは、素直に嬉しい。

切実であれればと思いながら生きるようになってきている。切実だってのは、言われた記憶がない。きっと、切実じゃないんだと思う。

 

手を広げれば届く範囲のものを掴む自信もないから、いつしか手を全力では広げなくなった。そんな人間のくせに、そんな人間だから、手を伸ばしても足を伸ばしても届かないようなものを目指して、手も足もバタバタし続けている、そんな姿が、本当にまぶしく映る。

そんな風に足掻いている人をみて気持ちを揺さぶられる、そんな人間にもできる最低限の礼儀として、僕も足掻いてみろよ。

僕も、足掻きたい。周りからいくら無様に見えてもいい。周りが見えなくなるくらいに、何かを心の底から求めて、そんな風に足掻いてみたい。

 

絶対に負けられない戦いがそこにはあるんだとして、絶対に戦わないでも済みそうなルートを探す。絶対に戦わなければ、絶対に負けないから。そんな人間のくせに、そんな人間だから、勝ち負けを考える前にとりあえず戦ってみる、そんな姿を見ると、不意に、よくわからない涙が流れる。

そんな風に戦っている人の美しさを誰よりも見せてもらっている、そんな人間が返せる最低限で最大級の感謝のしるしとして、僕も戦ってみろよ。

僕も、戦いたい。机上の計算とかじゃなく、何かを心の底から手に入れようと、何かに心の底からの思いを伝えようと、そんな風に戦ってみたい。

 

俳優や映画スターには成れない

それどころか 君の前でさえも上手に笑えない

そんな僕に術はないよな

嗚呼・・・

何を間違った?

それさえもわからないんだ

ローリング ローリング

初めから持ってないのに胸が痛んだ

 

もしかしたら、もう間に合わないのかな。

だとしても、今からでも、転がり続けてみたい。

もしかしたら、もう間に合わないのかな。

だとしても、今からでも、切実に生きたんだと、最期は、そう思いながら死にたい。

 

転がる岩、君に朝が降る

転がる岩、君に朝が降る