NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS / NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ(初回生産限定盤)(DVD付)

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ(初回生産限定盤)(DVD付)

まずは、自分の立場を明らかにさせておこうじゃないか。
海外の音楽への入り口が、他でもない1995年の「(WHAT'S THE STORY)MORNING GLORY?」だった僕は、あれから13年経っても、結局その基準地から離れられず、また、離れたいとも思わなかった。あれから10年後に、あれから13年後に、他でもない彼ら自身がその場所を後にしたことに、鈍感な僕の耳でも十分気づくレベルの音に触れながらも、それでも結局原理主義を貫き通したような、そんなリスナーだ。あれから13年後の、現時点での彼らのラスト作品の、それも前半7曲にはかなり持っていかれたけれど、フラットな耳で聴いていたら十分に新たな基準地になりうる7曲だということには十分気づいていたけれど、それでも結局、僕はあの場所から離れられなかった。離れたくなかった。世界最高のメロディメイカーが残していった曲たちに、世界最高のメロディメイカーがそこから離れていった後も、僕は夢中にされ続けていたんだ。

世界最高のフロントマンを失った世界最高のメロディメイカーのデビュー盤は、やはりあのバンドを引っ張ってきたのはほかの誰でもない彼だったんだと再確認させる、そんな1枚だ。世界最高のメロディメイカーは、ここ数年、歩みを止めていない。かつての自分の手癖に溺れていない。手癖に溺れても良いのに。手癖に溺れたと、冗長だと、発売から数年後に評論家に手のひらを返されたあの作品ですらも、他のメロディメイカーが束になってかかっても敵わないレベルの作品だと、僕は今も思っているよ。
おっと、話が逸れた。歩みを止めていないということは、歩み続けているということだ。一歩一歩、歩み続けているということだ。世界最高のフロントマンの声がなくなったからこそ、それを改めて実感する。世界最高のフロントマンの声なしで、ここまで聴かせる作品に仕上がっているのは、世界最高のメロディセンスだけに頼っているわけでは、決してないということだ。あの1995年から10年後、13年後に彼らが、と言うより彼が生み出してきた曲たちの要素が、ここからは確かに聴こえる。タイトなリズム、ねっとりしたグルーヴ。彼の声に、よくマッチしている。ソウルフルな、ややもすると演歌調にもなりかねない彼の声を、本当に上手く引き立てている。1995年から16年間歩み続けてきた、2011年の音だ。彼は、時計の針を止めてなんていない。「Stop The Clocks」はやっぱりあのフロントマンの声で聴きたいとか、そんなことはもう、とりあえず今は良いのだ。彼は彼で、名盤を生んだ。そしてこちらも、名盤なのだ。

ベストトラックは、5曲目「(I Wanna Live In A Dream In My)Record Machine」。時計の針は確かに進めながらも、かつてのビッグコーラスにも負けない叫びを、彼はここで聴かせてくれる。

You can't give me reason I don't need one to shine

理由なんて言わなくていい。輝くための理由なんて必要ないさ。

本当に、その通りさ。理由なんて聞かなくていい。あなたは輝いている。あなたは昔も今も輝いている。それで何もかも十分だったんだ。それだけのことに気付けなかったのは、僕の方だったんだ。
僕ももう、ノスタルジックに昔に浸り続けるのは止めよう。あの時のあなたの輝きは、何年経っても決して色褪せない。僕はそれを、もう十分わかっている。わかりすぎるくらいわかっている。だから今は、あなたの今の輝きに、フラットに耳を傾けよう。そして、3年前、6年前のあなたの輝きにもフラットに耳が傾けられる、そんな日も、いつか僕に訪れさせたい。そうさせるのは、ほかでもない僕自身だ。

あの時あなたを好きになれたことは、本当に僕の財産で。今もあなたを好きでいられることが、本当に嬉しい。今もあなたを聴き続けていられることが、本当に嬉しい。今になってあなたをもっと好きになりたいと思えるなんて、今になってあなたをもっと聴きたいと思えるなんて、それはもう、本当に奇跡だ。