Suede / Bloodsports

ブラッドスポーツ(初回限定盤)(DVD付)

ブラッドスポーツ(初回限定盤)(DVD付)

 

ミュージシャンがニューアルバムを出すとなればとりあえず収録曲を全曲ネットでフル試聴、その中で気に入った曲だけを個別にネットでダウンロード購入、なんてのがもはや一般的なミュージックライフとなって久しいこの2013年に、それでもCDを買って音楽を聴くという行為には、一体どんな意味があるのだろうか。少なくとも上述のようなスタイルが主流になったここ数年で音楽を聴き始めた世代の少年少女たちがCDを買わないことに対して、僕は憂いの言葉を持たない。それぞれの世代がそれぞれの世代の聴き方で、音楽に親しんでいけばいいのだろう。

再結成を果たして3年目に満を持して発表されたスウェードの実に11年ぶり6枚目になるニューアルバムとなる本作も、公式サイトで収録曲を全曲試聴することができる。iTunes Storeで確認してみたところ、日本盤ボーナストラックを除けば、1曲200円で曲単位での購入もできる。

それでも僕は、スウェードのニューアルバムを迷うことなくCDで買った。試聴することもなく、CDで買った。

それぞれの世代にそれぞれの世代の音楽の聴き方があって、32歳の僕らの世代はたぶん、音楽雑誌のライターが紙媒体で発表した文章に親しんできた世代の中のしんがり近くで、輸入盤を取り扱っているCDショップに大学生になるまで行ったことさえなかった僕という個人は、音楽を聴くのにそれらがあるのとないのとでは聴こえ方が違ってくる、それくらいに、音楽雑誌のライターが紙媒体で発表した文章に親しみながら音楽を聴いてきた。僕がスウェードのニューアルバムを迷うことなくCDで買ったその理由のひとつに、発売を知った時から予想していた通りにCDのライナーノーツが粉川しのさんだったってのは、間違いなくある。音楽を聴き始めた頃に読み始めた音楽雑誌でスウェードへの偏愛を堂々と表明し続けてきた粉川しのさん、いやもうここまで来たらこう呼んでもいいだろう、しのたんのライナーを読みながらスウェードの新譜を聴きたいと思ったってのは、間違いなくある。

 

CDショップから帰宅して封を切り、歌詞カードより先にライナーを読む。1st「Suede」から3rd「Coming Up」までを「初期3部作」とカテゴライズするしのたんに対して、そういう括りをしたことがない僕は若干首を傾げながら、彼らの新譜制作はその「初期3部作」の正しさを認めることからはじまり、結果としてその正しさを奪還することに成功したのがこの新譜なのだと、そう迷いなく言い切るしのたん節を読む。

プロの熱狂的ファンに、脱帽する。バーナード・バトラー在籍当時の1st&2ndと、バーニー脱退を受けての起死回生作である3rdを併せて「3部作」とすることに、寸分の迷いも見られない。

 

いよいよCDを聴く。僕が音楽を聴き始めた頃に素晴らしい作品を聴かせてくれたスウェードが帰ってきてくれたという興奮と感動と共に1周目を終え、感動はそのままに、少しだけ冷静になって2周目も聴き終える。

プロのライターに、脱帽する。確かにこの新譜、1st&2ndのアングラと3rdのポップが、程よいバランスで混在している。再結成して3年間頑なに音源を発表してこなかった、そんな彼らがついに発表した新譜のこの作風が、意図的でない理由がない。彼らは意図的に3rdまでの3枚に照準を絞ってこの新譜を作り上げたのだ。3rdまでの3枚こそ自分たちの本質なんだと、その確信の下に作り上げたのが、この新譜なのだ。

 

正直言えば、4th「Head Music」が3rdに次いで彼らのディスコグラフィーで2番目に好きな僕としては、本作中で唯一「初期3部作」収録外の曲(4th収録「Everything Will Flow」)を思わせる「Sometimes I Feel I'll Float Away」(まあ、しのたんは「1st期のギターの恍惚に脳が蕩けそうになる」って書いてるけど)みたいな曲がもう少し欲しかったとは思う。Oasisのラストアルバムほどではないにしろ、1曲目「Barriers」から7曲目の前述「Sometimes ~」まで続くハイクオリティが、8曲目以降落ちちゃってるのは否定できないなあとも思う。けれど。けれど、確かにこの新譜は良いんだよ。この音が2013年のトレンドかどうかは知らんけど、スウェードの音が時代のトレンドだったことなんてたぶん元々ないし、この新譜が、スウェードスウェードのストロングポイントを認識して、スウェードスウェードを捉え直した、そんな1枚であることは、疑いようがない。プロの熱狂的ファンにしてプロのライターのしのたんは、ライナーで一貫してそう言っている。そしてそれは、確かにその通りだ。

 

音楽を聴き始めた頃に素晴らしい作品を聴かせてくれたミュージシャンが素晴らしい作品と共に帰ってきてくれたという興奮と、親しみをもって文章を読んできたプロの熱狂的ファンにしてプロのライターが、その記念すべき1枚と共に新たに信頼を寄せるに値するプロの文章を読ませてくれたという興奮、スウェードが11年ぶりに新譜を発表してくれたことで、僕は2つの興奮を受け取れた。

それぞれの世代がそれぞれの世代の聴き方で、音楽に親しんでいければいいのだろう。それぞれの世代がそれぞれの世代の聴き方で、音楽を聴いて興奮できればいいのだろう。

そして僕は僕の聴き方で、音楽を聴いて興奮できている。それは、素敵なことと言う以外にないじゃないか。