Dorothy Little Happy / Life goes on

Life goes on  (ALBUM+DVD) (初回生産限定)

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ご当地アイドル」っていう言葉がこうも市民権を得たのは一体いつ頃からの話なんだろうってことを、たまに考える。Wikipediaの「ローカルアイドル」の項に依れば、それは1993年の大阪パフォーマンスドールに端を発し、2004年のポップジャム中のつんく♂の「ロコドル」発言、そして2005年に結成したAKB48の大躍進でそれが確立されたと、そう理解して良いようだ。

ご当地アイドル」がこうも市民権を得るに至ったのは一体なぜなんだろうってことも、たまに考える。考えるけれど、これは「ご当地アイドル」を根付かせた立役者にして「会いに行けるアイドル」AKB48やあるいは「今会えるアイドル」ももいろクローバーZの存在、そしてCDよりも握手会チケットを売っていると揶揄される「AKB商法」なるものを思い起こせば、まあ考えるまでもないことで、単純に、人は会いたいのだろう。会える人を応援するのだろう。「人はみな、だれかを推すために生きている」なんてことをドヤ顔で言ってのける若手評論家が支持を得るんだから、それはそうなんだろう。

昔からロッキング・オンに登場するような音楽と同じくらいにガーリーポップな音楽が好きで、その詳細はまあ以前の南波志帆ちゃんの記事で書いたことだから繰り返さないけれど、ゆえに「ご当地アイドル」や「会いに行けるアイドル」とか言った風潮に対してどちらかと言えば否定的なスタンスで臨んできたことを、ここで表明しておこう。

 

「仙台から誕生した5人組アイドルグループ」として紹介される彼女たち、Dorothy Little Happyの1stアルバムとなる本作は、そんなスタンスであるが故に聴かずに終わるなんてことがなくて本当に良かったと心底思う、そんなレベルの傑作だ。より精確に言えば、そんなスタンスをとってきた理由を揺るがしかねないレベルの大名曲が収録された、そういう傑作だ。

その大名曲は、オープニング曲にしてタイトル曲「Life goes on」。

 

 

2011年の復興支援ライヴで初めて発表されたというこの曲には、彼女たちが「仙台から誕生した5人組アイドルグループ」と紹介されるに相応しいその理由のすべてが詰められている、そう言える。少なくとも僕はこれまでこの曲ほど素晴らしい人生賛歌を聴いた記憶はそう何度もないし、これからこの曲ほど素晴らしい人生賛歌に出会うことはそう何度もないだろうなと、そう思ってる。本作のプロデューサーの1人にして、かつてお世辞にも売れたとは言い難いロックバンドのフロントマンだった青森県出身坂本サトルの手によって生まれたこの普遍的な名曲は、仙台から誕生した5人組アイドルグループの彼女たちが歌うことによって、パーソナルな名曲としての深読みをも可能にしている。

そう、これはもしかしたら単なる深読みなのかも知れない。だがたとえそうだったとして、それがなんだというのか。たとえそうだったとして、それはこの曲の価値を上げることこそあれど、下げることなど決してない。素晴らしい音楽とはそういうものだと、僕は思う。

 

この決定的な1曲で幕を開ける本作は、結論から言えばこの決定的な1曲レベルの名曲がまだまだ収録されている、そういうわけではさすがにない。だからと言って、聴くに値しないレベルのいわゆる捨て曲は、1曲とてない。オープニング曲に続くのはコラボシングルを発表したBiSのナンバーの好カバーで、その後もバニラビーンズの最新作を思わせるバンドサウンドもあれば、Tomato n' Pineを思い出すような洗練されたポップソングもある。ももいろクローバーZを引き合いに出したくなる様な躍動感に満ちた曲もあり、(これはツイッターの相互フォローさんの指摘で気づいたのだけれど)イントロを聴いてYUKIの「JOY」かと思うような、そんな曲まで。これからどこへ向かっていくんだろうと、そんな期待に胸が高鳴るような、そんな曲たち。

優れたロックバンドの1stアルバムがしばしば「すべてが詰まっている」という言葉で称賛されることを引き合いに出すのなら、この優れたアイドルの1stアルバムは、「無限の余白が感じられる」という言葉で称賛したくなる、そんな作品だ。

 

私たちは生きていく 私たちは歩いてく

私たちが明日になる

Life goes on!

 

タイトル曲の最後の1節、やっぱり無限の深読みをしないではいられない。「仙台から誕生した5人組アイドルグループ」、Dorothy Little Happyの明日に、僕は、胸を躍らせないではいられない。