The Birthday / I'M JUST A DOG

I'M JUST A DOG (初回限定盤)(DVD付)

I'M JUST A DOG (初回限定盤)(DVD付)

「バンド・マジック」という言葉がある。このバンドメンバーでなければ生まれえないグルーヴ、このバンドメンバーでなければ生まれえない化学反応、このバンドメンバーでなければ生まれえない音。こういう言葉だけでは説明しきれないもの。それらをひっくるめて「マジック」と最初に名づけた人は、誰なんだろう。まさに、「言いえて妙」だ。
たとえばソロで活動していても素晴らしい音楽を生み出すんだろうなあと確信できるようなようなミュージシャンが頑ななまでに「バンド」という形態にこだわり続けていたり、あるいは、名義上はソロで活動しているミュージシャンもそのバック・バンドは長年に渡って固定されたメンバーであったり、そういう例はポップミュージックの歴史上、珍しいことでもなんでもない。「バンド・マジック」が醸し出す魅力は、それほどに圧倒的なものがあるのだろう。
容易に手に入れられないからこそ、それは「マジック=魔法」と呼ばれるんだろう。眩いほどの輝きを放っていたバンドのメンバーがソロ活動を始めて精彩を失っていった、そんな例もポップミュージックの歴史上、枚挙にいとまがない。「バンド・マジック」は、それほどに得難いものなのだろう。

チバ ユウスケ vocal
アベ フトシ guitar
ウエノ コウジ bass
クハラ カズユキ drums

自分が音楽を意識的に聴くようになってはじめてリアルタイムで「バンド・マジック」を感じたのは、間違いなく彼ら4人、ミッシェル・ガン・エレファントだ。この音を鳴らすのはこの4人以外にありえない、この4人が並んで演奏している姿を目にする、もうそれだけで最高の音が聴こえてきそうな、そんな感覚を僕に教えてくれたのは、間違いなく彼ら4人、ミッシェル・ガン・エレファントだ。甲本ヒロト真島昌利の日本最強ロックンロールコンビをもってしても、こと「バンド」としては彼らにかなわない。世界最高のロックブラザー、ギャラガー兄弟もまた然り。後に「3本足の犬」になる、マイケル・スタイプピーター・バックマイク・ミルズビル・ベリーR.E.M.も、デーモン・アルバーングレアム・コクソン、アレックス・ジェームス、デイヴ・ロウントゥリーのブラーも及ばない。自分がリアルタイムで間に合った中では、彼らとイアン・ブラウンジョン・スクワイア、マニ、レニの4人=ストーン・ローゼズ(聴き始めた時にはすでに解散寸前だったけれど)、この2つのバンドにかかっていたマジックは、本当に圧倒的だった。ミッシェルとローゼズを聴くことで僕は「バンド・マジック」という言葉を理解した、そう言っても過言ではない。

眩いほどの輝きを放っていたストーン・ローゼズのメンバーは、解散後にそれぞれがソロ活動を始めて、やはり、精彩を失っていってしまった。とは言いながらイアン・ブラウンのアルバムは割と聴くけれど、見逃すのは惜しい輝きを放っている曲もあるけれど、それでもあの輝きは失われ、二度と戻らない。プライマル・スクリームで第2の春を謳歌するマニは大丈夫だとして、ジョン・スクワイアとレニに至っては、音楽そのものから遠ざかってしまった。それも、仕方ないのかも知れない。自分たちにかかっていたマジックが解けてしまったことに気付けば、マジックがかかっていた自分たちには戻らないと自分が決めたのなら、その選択はむしろ、潔いと言っても良いのかも知れない。

眩いほどの輝きを放っていたミッシェル・ガン・エレファントのメンバーは、解散後も誰1人としてソロ活動を始めることはなかった。それほどにバンドという形態に魅せられていたのだろうか。バンドという形態のまま、ビートの亡霊にとりつかれていたのだろうか。だがしかし、とくにボーカルのチバユウスケさんの存在感は圧倒的に大きく、彼の存在感を「バンド」という形態に収められるのは、少なくとも先月までの僕には、ミッシェルという器以外考えられなかった。あれだけの存在感のある人をバンドの一員として機能させるほどの器をもったバンドは、ミッシェル以外に存在しないと。ROSSOももちろん聴いてはいたけれど、チバさんの詩とチバさんのボーカルが前に前に聴こえてきて、素晴らしいと思いながらも、正直、時々、辛かった。そしてミッシェルは、もう2度と戻ってこない。何がなくとも2度と戻らないという決意を持って解散したと思っているし、実際の話として、何があろうと、もう2度と戻ってこない。
そして数年前に、バースデイの2ndアルバムのジャケット一面にチバさんの顔が大写しになっているのを目にして、僕はかつてチバさんがマジックを放っていたバンドの音を、これからもずっと聴き続けていければそれで良いと、それだけで良いと、そう納得した。そのはずだった。

先行シングル「なぜか今日は」を含めて、ツイッターのTLで異常に評判が良かったバースデイの新譜は、聞けばギタリストが交代しての初めてのアルバムだと。前のギタリスト在籍時の音を知らないので、比較してどうこう言うことはないけれど、なるほど確かに、このアルバムでチバさんは「バンド」の1メンバーとして、とても居心地が良さそうだ。「なぜか今日は」や「爪痕」、「I'm just a dog」など、全文引用したくなるような素晴らしい詩が乗った演奏は、その詩を向こうに回して余りある、とまではいかないまでも、しっかりそちらにも耳を傾けたくなる、心地良い音。ミッシェル後期と比べてもなお意味に寄った感のあるチバさんの詩を、しっかり歌詞として成立させているギターは、確かに僕にとってはアベさん以来だ。それでいてアベさんの、まるで歌詞を含めて斬り刻もうとするかのようなギターとはまた違う、歌詞と共に歌っているようなメロディアスなギター。中でも「BABY YOU CAN」は、出色の出来。思わずミッシェルの「キラー・ビーチ」を思い起こさせるような音色に、今のチバさんの詩をごく自然に乗せることに成功している、アルバムの中でトータルとして1番好きな曲。

眩いほどの輝きを放っていたミッシェル・ガン・エレファントのメンバーが2人在籍しているザ・バースデイは、決してミッシェルのメンバーが2人在籍しているだけのバンドじゃない。ずーっと彼らの音に触れてきた人たちには「何をいまさら!」と怒られそうなことを、僕もいまさら思う。新しいマジックがかかったチバさんが、新しいマジックのかかったバンドで生み出す音を、もう一度僕も追いかけ始めようと思う。かつてチバさん、クハラさんの生み出したマジックに心底夢中になった1人として、それはやっぱり、やっぱり嬉しいこと。

眩いほどの輝きを放っていたミッシェル・ガン・エレファントのメンバーが2人在籍しているザ・バースデイは、決してミッシェルのメンバーが2人在籍しているだけのバンドじゃない。ジャケットを見れば、わかるじゃないか。バランスの悪い構図で、4人が無表情にこちらを見ている。4人がこちらを見ている。ほかの誰でもない4人が、こちらを見ている。