music of the year : 2010 No.10 ; BRANDON FLOWERS / FLAMINGO

フラミンゴ

フラミンゴ

シーンはどんどんと細分化していき、それぞれのシーンに光り輝くアクトが星の数ほど生まれた。それは間違いなく、ゼロ年代を通じて音楽を聴いてきた中での収穫と言える。

それぞれのシーンで光り輝くアクトが星の数ほど生まれた、にもかかわらず彼らは、そのシーンを出ていくことを怖がっているのか、それともそのシーンの外の音を鳴らすことに単純に興味がないのか。

どこまでも大きくなっていきたい! 世界中に自分の音を届けたい!

そんな無謀と紙一重の野心を持ったアクトに、それぞれのシーンをくまなくチェックしているわけでもない単なる音楽好きの僕が、多くは出会えなかったことが、ゼロ年代を通じて音楽を聴いてきた中での、ひとつの悔恨であることは否定できない。

ザ・キラーズは、そんな野心家好きの僕の胸を躍らせてくれた、数少ないアクトのひとつだ。そして本作は、そのフロントマン、ブランドン・フラワーズの1stソロアルバムである。

ニューウェーブ・リバイバルの先駆けとして1st「ホット・ファス」でシーンに颯爽と登場したキラーズは、その2nd「サムズ・タウン」で、音楽性を大胆にシフトした。音楽性のみならず、外見も含めた大胆なシフト。グラマラスさとスタイリッシュさを前面に押し出した1stから、故郷ラスベガス、祖国アメリカへの郷愁を前面に押し出し、もはや土の匂いすら感じられるような2ndへ。現時点でのバンド最新作、3rd「デイ&エイジ」は、その2作の要素を上手くミックスした音に仕上げてきた。
そしてキラーズの全作に共通するのが、過剰なまでにポップな歌メロと、それを歌い上げる、過剰なまでにエモーショナルなブランドンの声。
質の高さだけを目指すのであれば、この過剰なまでのメロはともかく、過剰なまでのエモーショナルさは特に必要無い気がしないでもないが、この過剰なまでのエモーショナルさこそ、僕がキラーズに肩入れする1番の要素と言える。ブランドン自身も尊敬してやまないU2のボノを想起せずにはいられないその声にこそ、尽きることのない彼の上昇志向が詰まっているのだ。極論は承知の上で言えば、彼の過剰なまでにエモーショナルな声こそは、もはや「ザ・キラーズ」と同義でさえあるのだ。過剰さで世界制覇を目指すブランドンの声こそが、ザ・キラーズの本質なのだ。

そして初のソロ作となる本作で鳴らされる音は、バンドの2ndが祖国アメリカでそれほど受け入れられなかったことがブランドンを悩ませたと言う、所謂「アメリカン・ロック」だ。
世界制覇を目指す男が、一度思うような結果が得られなかった音を、その事実は十分に承知しているだろうに、もう一度鳴らす。その理由は僕にはわからないが、ブランドンにとって「アメリカン・ロック」と、故郷ラスベガスへの思いというものが、それだけ重要な、替えの効かないものであることは、十分に窺い知れる。

本人にしか理解できないであろうその深い拘りと、世界制覇と言う飽くなき野望を両立させるための手段として彼が取ったそれは、結論から言えば、僕は全面的には納得し難いものになった。過剰なまでのポップなメロと、過剰なまでのエモーショナルな声が、本作では、やや抑えがちになってしまっているように思えるのだ。
ボーナストラック含めて全15曲(内1曲はミックス違い)、流麗なメロディは相変わらずだが、突き抜ける程のそれはない。それはきっと、悪いことでは全くないが、突き抜けるほどにポップな「When You Were Young」(「サムズ・タウン」収録)が大好きな人間だって、ここにいるのだ。
バンド時代含めて4作目、ボーカルはもはや貫禄すら漂わせる。ファルセットの安定感など流石と言うより他ないが、時に音程が怪しくなるほどに歌い上げる程のそれはない。それはきっと、悪いことでは全く無い。全く無いのだが、音程を怪しくしながらも全力で「This River Is Wild」(「サムズ・タウン」収録)を歌うブランドンに胸を焦がした人間だって、ここにいるのだ。

そう、「サムズ・タウン」は、全くもって失敗作ではない。彼の中から溢れだす故郷と祖国への思いを全力で曝け出した、傑作以外の何ものでもない。彼自身がもしも、それが世界に届かなかったと思っているのならば、彼の取る選択肢はたったひとつのはずだ。もっと過剰にポップに、もっと過剰にエモーショナルに、それを鳴り響かせることだ。

どこまでも大きくなっていきたい! 世界中に自分の音を届けたい!

そんな野心を誰よりも感じさせてくれるブランドン・フラワーズが大好きな僕は、本作を彼にとって初の停滞作と位置付けよう。作品の完成度も勿論だけど、それ以上に、作品に絶え間なく潜む過剰さによってこそ、世界制覇を成し遂げる。ブランドン・フラワーズは、それだけの器を持っているミュージシャンだってこと、キラーズの3作が大好きな僕は、知っているから。