成長するってこと 涙見せたっていいぜ

9月10日金曜日、サニーデイ・サービスのライヴに行ってきました。

ボブ・ディラン、MIKAに続いて今年3度目のライヴ。今月はあとアジカンにも行く予定、10月にはMass Of The Fermenting Dregs(通称マスドレ)もチケット購入済みなんだけど、もう断言しよう。ディランと並ぶ今年のベストライヴだった。

サニーデイ・サービスを初めて聴いたのは確か高校2年生の時で、その頃購読し始めた「ロッキング・オン・ジャパン」誌の読者コーナーでたびたび「曽我部さん」の名前を見かけたのがきっかけだったと記憶している。と言っても真面目に音楽性を論じたそれではまったく無く、どちらかと言えばとても若者とは思えない特異なヴィジュアルを持った曽我部恵一さんをいじるような内容がメインだった。

そして「東京」を初めて聴き、どちらかと言えばコミックバンド的な先入観を持っていた僕の意識は見事にひっくり返った。あんなに美しい音楽を聴いたことはそれまでなかったし、多分それからもない。
大好きなミュージシャンはそれからいくつもいくつも出来たし、大好きなアルバムもいくつもいくつも出来た。でも、サニーデイ・サービスの「東京」を超える美しさを持ったアルバムには、それから出会っていない。

サニーデイ・サービスの「東京」を超えるほどに大好きなアルバムは、正直何枚かあるし、彼らのアルバムの中でも「24時」が1番好き。「東京」の次に聴いた「愛と笑いの夜」がその次に好き。
「東京」のように、もう美しさだけで出来ているようなアルバムを作れてしまったサニーデイ・サービスが、その純粋無垢な美しさとはそぐわない、苛立ちや破綻の香りを仄かに窺わせる、そんなこの2枚が学生の頃の僕が好きだったサニーデイ・サービスの音で、「東京」の美しさを違う側面から再現「してしまった」セルフタイトルや、苛立ちや破綻の香りを「封じ込めて」作った「MUGEN」は、勿論好きではあったけれど、そこまでのめり込みはしなかった。解散前のラストアルバム「LOVE ALBUM」は、正直あまり聴いてない。そして、サニーデイ・サービスは解散した。僕の大好きだったサニーデイ・サービスは、いなくなってしまった。多分、永遠に。

10年ぶりの再結成アルバム発売のニュースには、それでもやっぱり胸が高鳴ったし、個人的嗜好と若干ずれてはいたけれど、ソカバンで充実している曽我部さんの姿も知っていた。そして購入した「本日は晴天なり」は、あの美しさも、それに対する苛立ちも、全てまるごと飲み込んで、その上でもう一度美しさを鳴らした、そんなアルバムだった。

そして、ライヴで10年以上前の曲を歌う曽我部さんは、高音部で声がたびたび擦れ、10年以上前の曲を演奏するメンバーは、音源よりもずっとしっかりしたそれを聴かせてくれた。囁くような甘いボーカルとペコペコしたドラムやヘナヘナしたリズムが代名詞、と言っても過言ではなかったサニーデイ・サービスは、しっかりした演奏と、少しだけ苦しそうなボーカルを擁するバンドになっていて、それを聴く僕は、もう胸いっぱいになっていた。曽我部さんに合わせてメロディーを口ずさみながら、少しだけ、涙を流しそうになっていた。

サニーデイを初めて聴いた時の僕、17歳。今の僕、30歳。
僕が初めてサニーデイを聴いた時の曽我部さん、26歳。今の曽我部さん、39歳。

レビューにも、同じようなことを書いているけれど。

13年の月日が、人間1人、バンドひとつを、変えないはずがない。
13年の月日で、人間1人、バンドひとつが、変わりきるはずもない。

今の僕が、何の前知識も無しに13年前のサニーデイを初聴したら、今と同じようにサニーデイを大好きになるかは分からない。多分、好きになると思うけれど。
13年前の僕が、何の前知識も無しに今のサニーデイを初聴したら、13年前と同じようにサニーデイを大好きになるかは分からない。多分、好きになると思うけれど。

13年前、僕は13年前のサニーデイ・サービスに出会い、サニーデイ・サービスが大好きになった。
そして13年後、僕は13年経ったサニーデイ・サービスのアルバムを聴き、サニーデイ・サービスのライヴに行き、サニーデイ・サービスが大好きだ。

こんなに素敵なこと、そうあるもんじゃない。

MCで曽我部さんは、こんなことを言っていた。
「この中には、10年前のライヴに来てくれていたお客さんや、10年前に聴いていてくれたお客さんもいると思います。10年後、また皆とここで会えたら、嬉しいです」
ホント、そう思う。

会場では、小さな赤ちゃん連れの夫婦を何組か見た。親が親になる前の若き日々、サニーデイを聴いていたんだろう。

10年後僕は結婚してるかは知らんし、親になっているかも知らん。けれど、もしも結婚して親になっていたら。家族みんなで、サニーデイを見に行きたいと思う。
それはきっと、何よりも素敵なことだろう。